MITビールゲーム(Beer Game) 

 ロジスティクスとは,簡潔に言うと「材料の調達から,生産,最終ユーザーへの製品の配達,廃棄/回収までのトータルな物の流れを扱う活動」 (高橋輝男 他,「ロジスティクス---理論と実践」,白桃書房,1997)と言うことができる.  第1回の演習の目的は,実務経験を持たない学生諸君に,「ビールゲーム」と呼ばれる簡単なゲーム体験を通じてロジスティクス意思決定の 一端を体感してもらうことにある.
 ビールゲームには様々な変形版があるが,今回使用するゲームは開発当初から使われているゲーム盤を使った一番素朴な形のもので, 米国MITで開発されたことからここではMITビールゲームと呼ぶことにする.MITビールゲームは単純であるにもかかわらず、 ロジスティクス意思決定の本質をついている.
 今回使用するゲーム盤およびルールは,日本システム・ダイナミクス学会が公開している情報,文書に基づいている. (詳細はhttp://j-s-d.jp/を参照のこと)

A.ビールゲームのねらい
   ビールゲームは各チームがビールゲーム盤に向かい、勝敗を競うゲームであり、参加者が一つの複雑なシステムについての意思決定を分担して、 他のメンバーの圧力を相互に感じながら自らの意思決定を遂行するというロールプレイングゲームです。
 このゲームを通じ、システム思考とはどういうものかを体験的に学習します。

B.ビールゲームの概要
 ゲーム盤は、「工場」で生産されたビール(製品)が、「倉庫(一次卸)」、「商社(二次卸)」を経て「酒店(小売店)」へ届くというサプライチェーンの流れを表したものです。
 各コンポーネントでは、在庫には「在庫管理費用」、受注残(品切れ)には「品切損失費用」がそれぞれかかります。 (今回は、在庫管理費用は単位当たり0.5ドル、品切損失費用は単位当たり1.0ドルかかるものとします) 在庫を大量に抱えてしまったり、慢性的に品切れを引き起こすと、サプライチェーン全体としての総費用が高くなります。 そこで、なるべく在庫を少なく、かつ品切れを起こさないようにうまくもの(ビール)を流すようにすることが重要となります。
 ただし、酒店で発生する需要は酒店以外は分かりません。さらに、各コンポーネント間でのコミニュケーションは禁止です! これは、現実世界ではお互い他人の活動は分からないということを反映するためです。ゲームボード版を見渡すことだけが許されます。
 よって、自分の知りうる情報と全体の見えない状況をよく考慮し、うまくものが流れるよう、上流に発注を行わなければなりません。 酒店は商社、商社は倉庫、倉庫は工場へと、それぞれ一段階上のコンポーネントに注文を出します。
 ゲームは1週単位で、全50週行われます。ゲーム終了時点での全コンポーネントの在庫管理費+機会損失費が少ないチームの勝ちです。 全てのコンポーネントが適正な在庫量を確保しながらものが流れるという状況を目指し、がんばってください。

C.ものの流れと情報の流れ
 ビールゲーム盤はものの流れ,情報の流れの2つの流れから構成されています.これらを詳しく解説します。
 もの(ビール)の流れはコインを使って表します。情報の流れは付箋(ポストイット)を使って表します。

[ものの流れ]
 まず,ものの流れは,右上の「原材料」に始まります.ここにコインを置いておきます。コイン1枚でビール1ケースを表します. 今回実験で使うのは、赤いコインです。また、他の色のコインを使って、1枚10ケースを表せば数の計算が容易になります.
 原材料は,生産に2週間を要して製品になります.まず1週目には,「原材料」のコインを最初の「生産中」に進め, 続く2週目には,これを2番目の「完成品」に進めます.こうして2週間後には,製品となったコインを「工場」の在庫に進めます.
 製品は,「工場」→「倉庫」→「商社」→「酒店」へと配送されます.各配送には2週間を要します.まず1週目には,「工場」の在庫にある コインを最初の「出荷」に進め,続く2週目には,これを2番目の「配送遅れ」に進めます.こうして2週間後には,「倉庫」の在庫に進めます. 同様にして下流の「商社」、「酒店」へと進めていきます.最終的には,製品は顧客に出荷されるので,「酒店」は在庫のコインを「顧客に販売された注文」へと出す.(これらのコインは,「原材料」に回して再利用します)
 ゲーム開始前の状態は,2つの「出荷」・「配送中」にコイン4枚,各コンポーネントの在庫は12枚とします。この状態からスタートします。

[情報の流れ]
 つぎに,情報の流れは,ビールゲーム盤左上の「注文カード」に始まります.「注文カード」には,顧客からの注文数をあらかじめ記入した50枚のカードを 裏に伏せて重ねておきます.ゲーム中,「酒店」の担当者だけがカードを開き注文数を知ることになります.
 「酒店」は,「注文カード」を1枚開き,そこに記入してある注文数分のコインを在庫から「顧客に販売された注文」へと出します. 開いたカードは,「処理済み注文票」に伏せて重ねます.続いて,次週の注文数を予想し,在庫切れが生じないように「商社」に対する注文数を 意思決定し発注します.発注に際しては,付箋に記入し,裏にして「発注」に貼る.発注では,相手に情報が届くまで2週間を要します. 1週目に「発注」に置いたカードは,2週目には「受注」に進みます.
 「商社」は、酒店から上がってきた注文中の付箋を開き、そこに記入してある注文数分のコインを、在庫から左側の配送中に進めます。 付箋は他の人に見られないように裏返して隠しておきます。付箋は再利用することも出来るのできれいにとっておきましょう。 そして、同じく在庫切れを起こさないように、「倉庫」へ注文数を意思決定します。
 「倉庫」も商社と同様の意思決定をします。商社からあがってきた注文中の付箋を開いて、コインを配送中に進めます。 在庫切れを起こさないよう、「工場」へ注文数を意思決定します。
 「工場」は他のコンポーネントと異なります。「製造指示」に貼ってある付箋を開いて、その数を原材料から最初の生産遅れに進めてください。 (生産現場へ情報が届くのは1週:他よりも短い)そして、在庫数を意思決定し、次週の注文量(=生産量)を意思決定し、 「製造指示」に新たに貼ります。 このように、情報の流れのなかで意思決定がなされます。ものの流れと逆向きのなかで、各コンポーネントは、 自らの立場において最も合理的な方法を意思決定をします。

D.ゲームの手順
 1週単位でゲームは進んでいきます。1週のうちにやることは、以下のような流れになっています。

  1. 配送中・出荷にあるコインを1マスずつ次へ進める。
  2. 注文カード・付箋をめくり、書かれた数の分だけ在庫からコインを出す。
    (前週に受注残がある場合は、[書かれた数]+[前週の受注残]の合計数を出さなければならない)
    足りない場合は、あるだけコインを出し、残りを受注残とする。
  3. この時点での在庫数または受注残数を記録する
  4. 「発注」にある付箋を右側の注文中に移す。工場は受注の付箋を開け、書かれた数だけ原材料から最初の生産中にコインを出す。
  5. 現在の在庫数、受注残数などを考慮して、注文数を決定する。付箋に注文数を記入し、裏返して「発注」に貼る。注文数を記録する。
 この流れをきちんと覚えて、把握してください!また、受注残の計算を間違えないよう気をつけてください。

E.ゲームの考察
 各コンポーネントの記録シートから総費用を計算し、チームの勝敗が決まります。 左メニューの「演習資料・レポート表紙」にあるビールゲーム集計シート(エクセル)にデータを入力すると、在庫数と発注数のグラフが自動生成されます。 自分の班、他の班のグラフを見比べてみてください。
 また、ゲーム終了後、TAとともに参加者は議論を行い、なぜうまくいかなかったのか?何が原因で総費用が高くなってしまったのか? などを話し合ってください。レポートで書くことの方向が見えてくると思います。